09 March

飛花(碓井貞光SS)

・・・・・・・おーっといけねえ、眠気がやってきた。
欠伸をしてたら、馬を並走させてるこわーい綱公がキッと睨む。



でもよぉ、そんなに気をはったら今から疲れるぜ。
 まあ見なよ・・・・・・・
瀬戸内の穏かな風がそこらの春の花を静かになびかせてるだけだ。
のどかなもんだぜ。
今は賊だの危険な輩がでる殺気は全く感じない。
そんなこたあ、長年の勘でわかるようになったんだよ。


−−−−−−−−−安心しろよ、大将。

水の勾玉を求めて周防の国へ向かう俺たち。
大将・綱公・そして宮から使わされてきたべっぴんの卜部ちゃん、
・・・・と、俺、貞光が山陽道を一路むかう。
綱が主である大将の疲労を気遣い、馬を休めようということを
提案する。馬を休ませる理由なら大将もすんなり了解した。
小高い見晴らしの良い場所に馬を繋ぐ。
柔らかい春の草花が咲いていて馬の餌場には最良だ。

卜部ちゃんが、疲れをとる丸薬だと言って大将や俺達にくれた。
口に含むとほのかな花の香りと甘味。
卜部ちゃんが拵えたものなら旨さも倍増だし、断然力が湧いてくる。
「糯米粉に滋養ある蜂の蜜をいれて練ってみました。」
甘味は人を穏やかな空気にさせる。
一口含むと大将の表情が柔らかくほころんだ。

−−−−−いいねえ。その表情。

草の原に腰かけて遠く海を見ている大将。
その頭上にふわりふわりと白い山桜がまい落ちる。
大将が目をあげた。

どんな覚悟で酷な立場にいるのか俺には聞くこともできないが、
本当なら都の屋敷で庭の桜を愛で、香を焚いた綺麗な衣の重ねに
桜花びらまい落ちる風情でも眺めながら文などを書いたり歌をよんだり
しているはずなんじゃねえのか?光姫さんよ。

−−−−−常陸の国・土蜘蛛族支配の村で、俺の喉元に突きつけた刃。
俺がその細首に刃を突きつけても怖じけることもない瞳の強さに
正直やられたんだせ。
一目みたときから、「女」だって分かったよ大将。

卜部ちゃんも俺もこうやって気がつかない振りをしてる演技、
結構気をつかうんだよ。
そこんとこ不思議と天然なのか、気づかれてないと思ってる。
可愛いなぁ。たまらんよ。
まあ、綱公もガッチガチに天然か。
あいつは笑えるくらい滑稽だけど。

都の外でも内でも、俺は女にモテるし女心をつかむ方法は
ガキのころから自然に叩きこまれた。何せ姉ばっかりいたしな。
だが魂が震えるほど惚れる女人にはまだあったことがない。
そりゃ俺だって初恋のひとつやふたつみっつやよっつは
経験したけどよ、ん、なんだ、こんな事いったら恥ずかしいが
肉欲を満たす女じゃなくて、魂から骨抜きになれる女に出会えたら
俺は命を差し出しても構わないとさえ思ってる。


−−−−−−大将、それがあんたなのかもしれないな。

常陸の国で都の連中を恨みながらふてくされて過ごしていたら、
俺はたいした人生を送れなかっただろう。
俺をあの自己の泥沼から救いだしてくれたのはあんたの刃と
引き下がらない瞳の強さだ。

さっきの言葉は訂正する。
あんたは姫でも、そこらのやんごとなき姫とは違う。
大人しく着飾り梅や桜を愛でて文を書いている姫じゃねえな。
舞い散る花の下で、弓の鍛練してる凛々しい姫だろう。

あーあ、綱公が羨ましい。
俺だってもっと近くにいたいよ。
苦しみや悲しみなど本音の話を聞いてやれんのにな。
無理をしょって弓を持つあんたの痛みをわかちあえるのにな。



−−−−−−−−−−−−−貞光?どうしたの?ぼんやりして。

目をあげるとそこには二つの可愛い膨らみの谷間。
そして可愛い顔。
うぉっ!

ヒカルちゃん!

いやぁびっくりしたなあ。
やめてくれよ。鼻血ふくじゃないか。
ただでさえ可愛いのに今日はまた刺激的なファッション、
ま、まあ、まだまだセクシーさにはかけるけどよ。
女子高生にはそれで十分十分。

今日も暑いわね。もう、10月なのになんなのかしら。
ふー、暑い。とため息つきながらヒカルちゃんは
ソファーに座り、クーラーの下で胸元をパフパフさせてる。
かわいい谷間がよっくみえるので俺は「おおっ」と思った。

 パソコンをいじりながら綱がこっちをチラチラみながら
「ヒカル!はしたないぞ。」 ついに怒りの一言。
まあ、俺がそばにいるのも面白くないんだろうがな。
おめーは年頃の娘を持つオヤジかよ。


「行方不明者の情報をネットに流したんだけど返信あった?」
「いや、ないよ。」と綱。
「そう。」
がっかりうつむくヒカルちゃん。
そうか、兄さんがいなくなってから間もなく一年になるんだな。

一時は酷く落ちこんで部屋にこもり、食事もせずにいたんだが、
綱が粘り強くヒカルちゃんを助け、今はかなり明るくなった。
 まあ、住人が色々やらかしてくれるから大家として沈んでも
いられ
ないんだろう。
ほんと、迷惑かけてんだか助けてんだかわかんね連中だな。
金太郎が洗濯機の排水パイプひっこぬいて床が水びたしになって
大変だったし、屋根に登って天体観測していた卜部ちゃんの
ストールが風で飛んで電柱に引っかかり電力会社から大目玉。

こないだなんか、やめとけってのに綱が取材たのまれた「土蜘蛛族」
とかいう時代錯誤な暴走族グループに接近して、二人とも危険な目
にあいそうになって必死になって帰ってきた。


 女子高生大家さんは元気だよ、頼光さんはよ帰ってこいや!
ヒカルちゃんが引きこもって泣いている姿は俺も苦手だ!!

「ヒカルちゃん、可愛い服を着てることだし俺とデートしないか?」
と軽く言って肩に手をかける。
かわいい顔で「おことわりよ!」つんと横をむく。

それでいい。
無理をしてないヒカルちゃんが一番素敵だ。





「・・・・なんだ?貞光。」
俺が大将を見ていたので気がついたみたいだ。
「いーや、なんでもねえよ。」
「このまま順調に山陽道をゆけば、次の”駅家”は大きなところと
きいています。海も近いですし、なにか美味しくて栄養のある
海の幸がいただけたら良いかもしれませんね。」卜部ちゃんが言う。
「そりゃいい♪ 海の幸がっつりといただきだぜ。楽しみ楽しみ。」
「貞光、遊びにきたわけではないんだぞ。」と綱。
「ふん、お前さんみたいに始終堅苦しいこと言ってたら身がもたんよ。
黙っていたって賊は向こうからやってくるさ。来ないうちはこっちも
体力を蓄える必要あるんじゃねえのか。」
「そうだな、貞光。」大将が微笑みながら烏帽子を被りなおす。

さっきハラハラ落ちてきた桜の花びらが烏帽子についたままだ。
−−−−−−ああ、良く似合うよ。

 危険を承知でここまできたんだよな、大将。
だったら、その覚悟まるごと受け入れてやるよ。
憎まれようが、生き残るためには多少きついことも言ってやる。
あんたも姫扱いされ、甘やかされるよりそっちが望みだろう?

そのかわり、俺なりに大将を守ってやる。

二本の愛刀をきゅっと握りしめ、出発の支度のため立ち上がった。

 大将の華奢な体が鞍に収まる、休んだ分顔つきが優しくなったな。
いつの日か無理をしない大将にあってみたい!
きっと都のどの姫よりも芳しく美しいだろうな。
そう、いつか見た小袿姿の可憐な姫君。偽らない姿の我が君。
いや、姫姿じゃなくてもいい、無理を背負わない光さんに
あってみたいもんだ。

俺は最高の主を見つけた幸せ者だ!!
「恋」なんて言葉で軽々しく語れない仲になりたいよ。

 大将が馬を歩かせ始めると烏帽子についていた白い花びらが
ふわっと宙に飛んだ。

俺はすかさずそれを掌におさめる。


ーーーーー瀬戸内の海が遠くおだやかに輝く昼下がりだった。

<おわり>







※  平安編の光は見た目は好きだけどいまいち好きに
なれないところも。無理をしている面が酷すぎて。
正統派なことばかりをかたくなに言い続ける部分もいまいち。
その陰で綱がけっこう苦労しているのに。

そこらへんが世間知らずなお姫様なのかもしれないが。
東京編のヒカルちゃんのほうに好感度あるのは彼女が無理を
していないから。時代設定的にそういうギャップがあるのは
しかたないのだろうが。東京編ヒカルの水沢さんの声演技も自然。


 東京編前半ヒカルちゃんが露出度高めの服ばかり着ている件。
あれで夜中まで綱といっしょに取材活動してたり、
ホームレスと新宿のマンホールに入ったりしているので
なんか心配である。
ミニバイクの走行も露出高いとあぶないよ。
2000年代前半の東京女子高生はあんな危ない夏私服きていたのか?
おしゃれにはとんと疎いのでよくわからん。

おいといて。

時間設定的には呪島へ向かう途中の一行ということで、
貞光目線で光を見ているSSにしてみた。
途中東京編も混入。

貞光、聞きようによっては本編で「差別発言」に近いような
セリフがある「女だてらに頑張ってる卜部ちゃん」とか。
(今の感覚だと死語かも。)
そういう表現は平安時代なんでしかたないのかもしれない。
また、貞光は光に綱が言わないような手厳しい指摘もしたりしてる。
女としてではなく、リーダーとして見ていた貞光はクールだ。
貞光の光(ヒカル)への想いは恋愛よりも高く別の次元だろうなって
思ってる。もちろん彼女を女性として好きなんだろうが。

貞光の初登場時の演出が酷すぎる。(これはぜひ言いたかった。)
いきなりなんの落ち度もない綱につっかかり殴るなんてあまりにも
非常識。綱が気の毒。もっと自然な登場の仕方してもらいたかった。
たしかに都人をみつけてムカッときたのだろうが短絡的。


好きなシーンの一つに東京編、熱を測るためヒカルのおでこに
貞光がおでこくっつける、するとヒカルがポッと赤らめた。
ヒカルが可愛い一場面。
ヒカルが頬を染めたのは万歳楽の他には、東京貞光だけ。
貞光はさらっと女心を掴む所業を心得ておる。
綱の場合は不器用一直線。
でも、一番偽りがない。
がんばれ綱。綱はほんとうにいいやつだ。