31 August

東京万歳楽家、京へ行く。(万歳楽受+万松小説)

※登場キャラについては同カテゴリ
{小説:東京万歳楽家}
「東京万歳楽家の夏」のはじめをご参照
ください。(万・頼・犬・松・老)

東京編のゲストキャラを捏造設定して構成し
たパラレルSS小説。今回は季節感無視して
桜の咲く前・・春先の話。










新幹線のぞみ号


グリーン車の一角にその一団はいた。
紅い髪に黒衣の青年、白い服の青年、和服の
少女、老人、そしてゲージの中には白い犬。
検札にきた車掌が怪訝な様子をしている。
どうみてもアヤシイ一団だ・・。

松虫がゲージの犬にうれしそうに切符を
ひらひらさせている、
「・・・・・・♪」(これはワンちゃんの切符
よ♪)白犬はぶすっとふてくされ臥せっていた。
切符は「手荷物用」・・ペットの切符だった。

車掌は「皆様、京都まで・・・ですね。」
「そう!」頼光が自然に愛想よく答えたので、
なんとなく車掌の不審感が薄らいだ。

車掌がむこうへ行くと
白い犬がガリガリとゲージに爪をたてた。
「なんで俺がこんなのにはいってるんだ!」
「仕方ないじゃないか、犬はゲージにいれな
きゃならないんだから。」と頼光。小型犬用
ゲージに入れられた白犬は黒目がちの可愛ら
しい白いマメシバ仔犬にしかみえなかった。
狭いゲージ内をぐるぐる廻りながらイラつい
ている。「だからお前に憑依させろ、頼光。」
「いやだよ、気持ち悪い。」普段は普通の人
には見えない姿でいるメンバーだが、今回は
人にも見える姿となっていた。松虫は飾り気
のない桜色一色の振り袖を着ている。まるで
日本人形そのものだ。流れ行く速い風景に
松虫は窓に手をあててじっとみていた。
「そうか、お嬢ちゃんは新幹線に乗るのは
はじめてなんだね。私もはじめて新幹線が
開通したときにはそうやって速い風景にみ
いっていたよ。あれは遥に昔の話。なつか
しい。もう半世紀も前のことじゃな。」
松虫の隣にすわった老人が読みかけのを膝
において目を細めた。

万歳楽もまた、流れる風景に思いをめぐら
せているのかじっとみていた。いつもの黒
いコート姿。春先だから馴染んでみえる。

頼光はひさびさに「現世」にいた。
ここの連中と行動していると自分もまた「時」
を感じない。不思議だとも思うが、まあそん
なものなんだろうな、と別に深くは追及しな
かった。彼らと同じ世界にいる間は、不思議
な公園老人に学び、いつか現世に戻ったとき
役立てるよう雑多にメモを書きためていた。

もっとも、頼光自体いますぐ戻る気など実は
薄い。一時現世に戻ってもこの通りだ。

こんな貴重な体験はそうそう味わえない。
申し訳ないがもう少々彼らに付き合いたか
った。

驚いたことに今回の旅行の費用はすべて
老人が出してくれた。・・・自分の遺産の
一部からだと。本人死亡で凍結されている
はずの預金からどうやって!?!

それになぜ彼らはわざわざ人にみえる姿にな
って旅をするのだろう?時空間を時の間の流
れに乗り、移動できるはずなのに。
「人の世の時の流れを確認するためだ。」
頼光の心の問に万歳楽が答えた。
頼光には実はそんなシリアスな理由より
もっと素朴な疑問があった。
なぜ、白犬は小型犬になってまで同行してる
のか?・・・・だ。彼は山犬型の高貴な精霊
のはずなんだが。
「そりゃ決まってるだろう、スキあればあい
つ・・万歳楽を手込めにするためさ。」速答
で犬が答えた。可愛い姿をしていながらなん
という・・・・。まあ、予想通りの答に頼光
はヤレヤレという感じ。
「犬、あんまり吠えると迷惑だからゲージ
ごとほおりだすぞ。」それを聞いた万歳楽が
じろりと睨みを効かせる。



--------東寺の塔がみえてきた。

〔京都〕

到着アナウンスが流れて下車する一同。
京都の駅は観光客でごったがえしていた。
それに特有の熱気が包む。「松虫、はぐれ
るなよ。」万歳楽は松虫の手をかたく繋い
だ。浮き世離れした美貌の青年が、市松人
形みたいな幼い少女をつれて歩いてる。
・・・・・当然ながら人目をひいた。
(・・・いや、万歳楽、それはアブナイよう
に見えるのだが。)後ろで白犬ゲージを抱え
た頼光がそう思っていたら、「すみません。
あなた、旅行客ですか?」と早速警官が声
をかけてきた。「そうだが。」
(・・・・どうみたって未成年者略取だよね
ソレ。万歳楽。)頼光はオロオロしていた。
「その子は私の孫娘で若者は私の友人だが。
・・・・なにかな?」背後から公園老人が
ニコニコしながら答えたので警官も「あ、
いや、どうぞ、お気をつけて観光なさって
ください。」と去っていった。
「・・・・?」(なんだったのかしら?)
松虫は大きな瞳で万歳楽を見上げた。
「お前は気にしなくていい。」

駅を出ると東寺の方へ歩いた。
白犬はゲージから出された、が、今度は首輪
にリードをつけられていた。「ううっちき
しょう!こんな屈辱的なポーズ!」
「"畜生"は君じゃあないか。犬の放し飼いは
ダメだろ。」頼光はリードを持ちなが
ら言った。すると悔し紛れと本音を込めて
白犬がこう言った。「俺は万歳楽にこういう
格好をさせたいぞ!・・・勿論、全裸でな。
それはそれはさぞ素敵なながめだろうな!
・・・・・・散々視姦したのち、いろいろ
恥ずかしいポーズをさせ(アッチの意味で)
食ってやる。・・・・・・・うまそうだ。
・・おぐっ!!・・ぐえぷっ! 
「!!emojiemoji
・・・・・万歳楽が白犬のリードを思いき
り踏みつけたので首輪が白犬に食い込んだ。

「うわー可愛い♪」
白いマメシバにしかみえない白犬は道行き、
女性や子供たちから声をかけられた。

しかし、すれ違う本物の犬たちは白犬の
本当の姿がみえるのか、尻尾をさげ怖れる
ように小さな悲鳴をあげていた。
「ふん、恐れ入ったかバカめ。」
「おいおい、ふつうの犬を怯えさせて偉そう
にするなよ、君はレベルの高い精霊だろ。」
頼光は呆れていた。「・・・・・。」(私が
ワンちゃんを抱っこしたい。)馴れないリー
ドをつけられてる白犬を気の毒に思った松
虫がぬいぐるみのように白犬を抱き抱えた。
それはそれで愛らしいのでかえって人目を
ひいた。「小娘!いらんことするな!恥ず
かしいわい!!」それでも白犬はおとなし
く抱きかかえられていた。


<史跡・羅城門跡>

普通の町中にあるちいさな公園。
石碑だけが跡地を示していた。
「・・・・。」万歳楽と松虫はその無味乾燥
な石碑を見つめていた。平安の世には大きく
・・そして独特の不気味な姿で朱雀大路の
入口に立っていた都の門。
今は跡形もなにもない・・。
しかし、その場所には遠い昔の悲しい時間が
あったのだ。万歳楽と松虫がじっとその場
にたたずむ。どれくらいの時間二人はそこ
にいただろう・・・。
しずかに・・・松虫の頬に涙が一筋流れて
いた。「おい小娘、泣くな。・・・今が幸
せなんだろ。」松虫に抱き抱えられてる小
型犬白犬は舌で松虫のやわらかい頬を優し
くなめた。「・・・・・」松虫は白犬を抱
きしめた。「・・・・・!」
「うぷっ!やめろ!俺は小娘には興味ねえ!」
「あの子にここは酷じゃないか?万歳楽。」
頼光の胸の中には妹の姿も重なって見えた。
「なにもない。なにもない所だからこそだ、
あれは別の時間。別の世界。・・それを確か
めるためにきたのだ。」
隣で老人が静かに頷いた。





<堀川通り・一条戻り橋と晴明神社>

車が行き交う通りの中にちいさな川が流れて
いる。「一条戻り橋」観光客の若い女性たち
が笑いながら自撮り撮影に興じている。
 
「晴明神社とここはあいかわらず人気だねえ。」
「ふん、パワースポットとかに踊らされやが
って。」白犬が毒づいた。「しかし、これだ
け人が集まるんだからなんらかのパワーがあ
るんだろ?」頼光は普段から地霊だの精霊だ
のにかこまれてるからなんとなくそういう
ものを感じるようになっていた。
「人の想いが沢山あつまればそこに”地霊”が
つくられることもあるのだよ。・・・あるい
はよびおこされるというかな・・人間は気づ
いていないが、想いの力というのは意外と大
きいものなのだよ。」微笑みながら老人は言
った。この人は本当に謎が多い不思議な人だ
な、と頼光は思った。松虫が「おじいちゃん
のほうの晴明様」となついているが、あれは
あながち嘘ではないのかもしれない、本人が
あえてそう語らないだけだ。

「この辺は鬱蒼とした藪があって、一条戻り
橋は欄干もないちいさな橋だったなあ。大雨
になれば流されることもあったし。」老人は
目を細めながら言った。「安倍晴明がこの橋
のたもとに式神を埋めたって言い伝えられて
るけど。」と頼光。「そんなことしただろう
か?」ほぼ同時に万歳楽と老人が答えた。
松虫はキョトンとしている。
その3人の様子があまりに可笑しくて頼光は
ふっと笑った。
「それより、お前の家来の事が書いてあるぞ。
頼光。」松虫に抱き上げられ説明文を読んだ
犬が言った。


綱が鬼の腕を切り落とした話だ。
「うーん、有名すぎる話だか、実はおぼえて
ないんだがなあ。あの綱ならやりそうかも
しれないなあ。・・・アハハハハハ。
伝説とはおもしろいもんだな。本人の知らな
いところでまことしやかに語られるんだな。
いろんな隠語や歴史的事象を含んでいるのだ
ろうけど。」

晴明神社も人がいっぱいだった。
「ほぉっほぉっ、ただの爺を神に祭り上げ
たのだな。」老人は拝殿に並ぶ人々を見な
がらそう言った。
「・・・・・。」(晴明様のお屋敷はもっと
ちがうところにあった気がするのだけど。)
松虫は万歳楽を見上げながらそう思った。
「あの頃の正確な資料はないだろうし、
この神社はかなり後に作られたものだから
な。」神社の境内の晴明像を見ながら老人
が「ふうむ・・いい男だな。」と微笑んだ。
入り口の式神像をみた白犬は「小娘とは似
てもにつかんな。」と。 だか、松虫はな
んとなくその像が気に入ったらしく頭をな
でなでしていた。

<哲学の道を歩く。>

川ぞいにはなかむつまじいカップルが見ら
れた。(どうせなら万歳楽と二人っきりで来
たかったな。)頼光はふっと思った。
「おい頼光、お前ろくでもない妄想していた
だろう。」頼光にリードに引かれながら犬が
ニヤリとした。「し、失敬な!悪いけど君ほ
どストレートには品のない発想はしないぞ。」
「どうだか。」前を歩く老人と松虫を見なが
ら白犬は言った。「じいさんと小娘だけを
帰して、俺がお前に憑依してあいつとお泊ま
りという方法もあるぞ。そうすればあんなこ
とこんなことし放題だ、どうだ、いい案だろ
う。俺もお前もさんざ万歳楽を味わえるぞ。
俺はやつをしゃぶりつくしたいぞ。」
見た目はかわいらしい仔犬のくせになんとい
うことを言うのだろう!
「犬!調子にのるな!川に叩き込む!!」
背後に静かに怒る万歳楽がいた。
「冗談にきまってんだろ。だいたいお前が
あまりにエロすぎるのが悪いんだ。いつか
きっと食ってやるから覚悟しとけ。」むちゃ
くちゃな理屈だな。と頼光はひきつった笑い
をした。しかし、自分だってこの犬とは何ら
変わりはないだろう。ほころび始めるにはも
う少し時間がかかりそうな桜をみあげながら、
万歳楽が桜吹雪の下なら、息をのむほど美し
いだろうなと思っていた。白い指先で桜の花
びらをつまむ・・・エロティズムさえ感じる
仕草を妄想していた。そしてその白い首筋に
はらりと桜が舞落ちる。その美しさを想像す
ると心が騒いだ。

「桜・・か。俺はいったいどれくらい春の桜
を見てきたのだろう。もっともソメイヨシノ
はだいぶ後世だがな。時の権力者たちは桜を
愛でたものだ。八重桜を派手に咲かそうと躍
起になったり、ばかばかしく騒がしい宴を開
いては権力を民に誇示したりと。権力の道具
にされた桜が哀れだ。俺は人からは気にはか
けられず愛でられもしない深山に静かに咲く
山桜が好きだ。」
目の先には桜色の振り袖をひらひらさせ、
老爺の話を聞きながら歩く可憐な松虫がい
た。透明な水面に魚が群れているのを指差し
楽しそうにしている。万歳楽はその二人を
優しい視線で眺めていた。頼光はふと自分の
邪心があさましくも思い恥ずかしくなった。

-----万歳楽には「あの子」が「愛でる桜」な
のだろうか?・・・・・・・・妹でもなく、
私でもなく・・・・・・。
・・・・・・だが、それは仕方がない。
所詮、私たちは存在する世界が違うのだ。

ふと、一抹の寂しさが心を過った。
頼光の心にふっと言いようもない影がおちた。

しばらく川のせせらぎだけがあたりをつつみ、
観光客が見えない静かな場所にでた。

「頼光・・・・俺もお前と二人っきりで
桜の道を歩いてみたいぞ。」

頼光は思いがけない言葉を万歳楽からかけら
れた。目の前の桜に鮮やかな光が差したよう
に見えた。



〈下鴨神社ーーー糺の森〉

深い杜の中を清らかな流れがあった。
白犬は松虫に抱かれてぴくりとも動かなか
った。市松人形が仔犬のぬいぐるみをかか
えているようにしか見えない。
「犬の散歩禁止」の立て札を見たからだ。
ゲージは駅のコインロッカーへしまってきた。
「さすがは高貴な精霊だ、身動ぎひとつも
しない。」頼光は褒めあげた。「ふん、当然
だ。若僧め恐れ入ったか。」白犬は身動ぎし
ない無表情のまま自慢げに言った。実にわか
り易い・・なんだかんだと言っても頼光はこ
の白犬の率直さが結構気に入っていた。

「・・・・ここの神聖な空気は今や100分の
1くらいになったな。・・・・いや、それ以
下かもしれない。」万歳楽は木々を見上げて
ぽつり呟いた。
「ああ、昔は深い聖域であった。」老人が
指差す方向に舟形に積まれた石があった。




_______濃密な闇の帷があたりを包む。

降ってくるのは今までに経験したことない
樹精の香の塊。
それがいくつもいくつも自分
のまわりに隕石群のように落ちてくる。

頼光は静寂な杜にいた。
・・・・・むこうから祝詞のような節が流れ
てくる。
聞いたことがない「古語(ふること)」。


ゆらゆらとした篝火がみえる。
舟形の石舞台の上、白いものが舞っていた。
槙を手に白い衣の舞人がいた。


あれは?



万歳楽?
妖しい切れ長の瞳に漆黒の長い髪・・・
美しい青年が舞っていた。
頬や額に弁柄の化粧(けわい)をしているが、
整った顔立ちだから余計妖しく美しい。

まちがいない・・万歳楽だ!

水干ではなく
平安よりももっと古い・・貫頭衣のような
衣装。
小さな藍色の瑠璃玉が幾重にも巻か
れている
腰には銅鏡のようなものをつけて
いる。
舞うたびに煌やかに光を放つ・・。
手にした槙からは清らかな露が飛び散る。

「巫」(かんなぎ)の装いだ・・と直感し
た。


篝火かと思ったら狐火のような炎を松虫に
よく似た少女が素手で胸の辺りに抱えていた。

無表情の大きな瞳に焔色を映す。


舟形の磐の上、
あれは・・・・・聖なる舞。



いつの間にか自分のまわりにたくさんのうご
めくものがひれ伏していた。
・・地の色と
同じ色をしているが・・人だ。


・・・・・・・この地に住む民たち・・。



「ここは都ができるはるかに昔から聖地で
あった。かつては縄文の民たちが祈りを捧
げていた場所・・・。」老人が呟いた。
その言葉で頼光ははっと引き戻された。
「ああ、俺がかつて駆け回っていた東国にも
こういう森が覆っていたぞ。」白犬はぬいぐ
るみの様相を解かないで樹の匂いを深く吸っ
ていた。「たしかに・・薄いな・・森の気が
・・。」今でも充分清らかな場所に感じるの
に、はるか太古にはさらに濃密だったのか。
そこでは・・・普通に人々は精霊と交流でき
ていたのだろう。

頼光は梢の木々をみあげて先程一瞬みえた幻
をもう一度再生してみようとしたが、何故か
霞にかかったように思い出せなかった。

・・・・あれは、過ぎ去った時間の・・太古
の残像なのだろうか。


ふと万歳楽の横顔を見た・・。
先ほど見た幻の中に彼を見たような・・・。

万歳楽はなにか想いを馳せるように木々の梢
を見ていた。その瞳はどこか遠い時間の彼方
を見ているようだった・・。

そしてかれらは何故か普通の観光客のように
下鴨神社本殿のほうには詣でることもなく、
糺の森を歩くとそのままあとにした。


「苦しかった!」
松虫に抱えられた犬が糺の森を出るとやは
り犬に戻った。リードをつけようとすると
「無礼者!」と頼光を威嚇する。
「わかったよ。私が抱えてやろう。」頼光は
犬を抱きかかえた。「ヤメロ!男になんか抱
きかかえられたくないわい!」
「だって、君は"男好き"じゃないか。」
「万歳楽は別格の上物だ!お前とは格がちが
うわ。向こうは極上特上ブランド品だ。お前
は閉店前三割引きシールのバーゲン品以下だ
わい。不味そう。万歳楽はめったにない最高
級品だ。お前など足元にも及ばん。三流品!」
「失礼なこというなあ・・。」相変わらずの
強烈毒舌に閉口した。すると頼光の前に松虫
が両手をさしのべた。「・・・。」
「え?抱きかかえてくれるのかい?君は疲れ
てるだろう。」「・・・・。」静かに微笑ん
で首を振った。
「・・・。おい、頼光、リードで歩くぞ。」
・・・やっぱり白犬はなんだかんだといって
松虫には気遣っていた。
「君・・・けっこういい奴なんだな。」
「フン!」



〈帰路〉

のぞみ号。
グリーン車の一角にその一団はいた。

幼い少女は黒衣の美青年にもたれて疲れ眠っ
ていた。老人もまた本を読みながらうつらう
つらしていた。巡った一つ一つの場所は距離
がある。タクシーで移動はした。しかし・・
この世の人ではないとはいえ小さい子や老人
には強行軍だったろう。


頼光は黒いガラスの向こうの風景をぼんやり
見ている。ひさびさの現世・・。
なぜ彼らは京都に来たんだろう?
理由は聞かされていない。
・・彼らは共通して平安の都を知っている。
ちらっと老人を見た。この人は、万歳楽と入
れ替わる前の本物の晴明だったのだろうか。
その思いがより一層濃厚になった旅だった。
頼光も平安・転生前にすごしていたらしいの
だが記憶が現世ではとぎれとぎれではっきり
しなくなる。
糺の森で見た幻影の糸を手繰り寄せようとす
るのだが、やっぱりはっきりしない。

彼らは・・「今の時」を「人の姿」で確認し、
昔の時間との違いを確認しに来たのだろうか
・・・それとも単なる物見遊山なのかはわか
らなかったが、頼光には興味深い旅だった。


白犬はゲージの中で車内販売のバニラアイス
を舐めていた。「うまいな少々固いが。頼光、
食わないならよこせ。」「君は精霊なのに動
物的な本能的欲求しかないのか。さっきは私
の駅弁まで食べたじゃないか。」
あきれながらも、こんなにあからさまに欲求
できる彼が羨ましくも思える。彼のこういう
”俗欲”にまみれた思考は逆に頼光をほっとさ
せた。

真正面の席では松虫が万歳楽に寄りかかって
眠っている。松虫の小さな肩に手を添えなが
ら、窓枠に頬杖をついて万歳楽は無言でガラ
ス向こうの闇を見ていた。




東京はまもなくだ。
今の私たちの”都”。

(どこであっても・・・私・・・頼光の都は
君のいるところだよ、・・・・・万歳楽。)


〈おわり〉





あとがき

京都行ったならもっとたのしい旅行にせん
か!とお思いかもしれない。

ロマンチックじゃなくてごめんなさい。
写真は管理人が現地で撮影したものです。

糺の森の話はかなり前から書いてみたかっ
たんです。あの船形の磐・・すごくロマン
がある。万歳楽は平安京ができる前からあ
の地の地霊だったと思うんです。
そのことについてもいつか書きたい。



余談・昔テレビで見た気がするのですが、
狼の子供を自宅で飼育することになった動物
園飼育員さんの話。
あるときリードをつけて
散歩させたそうな・・すると、
であう普通の
飼い犬はみんなおびえていたらしい・・。

の目には「子犬」にみえる・・のだろうけど、
やっぱりイヌは
わかるんですね・・。
そんな話をちょっと拝借しました。

渋谷の白犬は本編でほんのちょっとしかでて
こなかったし・・
もしかして畏れ多くもあの
神社の狛犬(狛狼)??なのかもしれないの
すっかりギャグキャラ化してしまっていい
のだろうか?(しかも頼光兄さんとセットで。)
今回は話がどうしてもかたくなりがちだった
のでこの方々に頑張ってもらいました。