16 October

東京万歳楽家の休日(万歳楽受+万松小説)

※登場キャラについては同カテゴリ{小説:東京万歳楽家}
「東京万歳楽家の夏」のはじめをご参照ください。
(万・頼・犬・松・老)

東京編のゲストキャラを捏造設定して構成したパラレルSS小説。







毎日が日曜日みたいな彼らなので休日というのはおかしい。
まあ、人間の感覚とアチラの世界の感覚とは違うのだろう。

----------------彼らは今日を「休日」だと言う。

都内を一望できる高級マンションの一番上の謎フロア。
私、頼光は今そこにいる。

老人の定位置である窓際ソファーに万歳楽と二人っきりで
座っていた。

広々したワンフロアに二人っきり。

さっきからどれくらい時間が経過しただろう?



窓からは燦々と秋の柔らかい日射しがさしていた。
こんな明るい健全な環境であやしの恋に心を焦がすのは御法度の
ような気がした。
しかし、いつも彼の側には童女がいたり、犬が背後でうろうろして
いたりと、なかなか二人っきりにはなれないのが事実だ。

今日、松虫は老人と一緒に図書館へ出掛けた。
元式神と幽霊のコンビだから関係者以外立ち入り禁止のバックヤード
に入れる。
秘蔵のお宝本を読みにいっているのだろう。
老人はそういう意味で幽霊になって楽しんでいる。
死してなお知的好奇心は旺盛なのだ。

万歳楽もたまには松虫を自由に外出させたいのだろう。

老人と松虫は手をつないで仲の良く出掛けた。
いってきますと松虫はニッコリと万歳楽に手を振った。
そんな姿をなにも言わないがいとおしく見つめながら見送っていた
万歳楽。

そういえば、近頃の都市伝説に都内あちこちの図書館や博物館の
バックヤードにハンチング帽姿のおじいさんの幽霊と浴衣姿の座敷
わらしがセットで出るとか言われてるらしいが・・・・それって。


白犬は「山の精霊・武蔵野支部定例会」にいった。
よくわからないが、かつてこの東京が山野だったころからいながら今は
すみにおいやられた精霊たちがたまに出会い人間どもの愚痴を
いいあったりする・・らしい。
みんな動物の姿なんだろうか?気になる。子供の頃、アニメ映画でみた
イノシンや鹿がカミだという山犬の姫と人間の青年がでてくる作品を
思い出した。
白犬は今年度は会長役が回ってきたといって愚痴をこぼしていた。
だから出席しないわけにはいかないらしい。
どこで集まってるんだろう?多摩の山中とか?面白そうだから
帰ってきてからいろいろ聞き出そう。




万歳楽は黒いコートを脱いで、その下の黒いシャツとスラックス姿。
体にぴったりとしたシャツに少しドキドキする。

白いソファーに二人っきり。

その静けさに逆になんとなく気まずさを感じる。

こんな時間を望んでいたはずなのに、いざというとき言葉も出ない。

「俺の留守中に万歳楽に手をだしたらその貧弱な喉に食らいつくから
覚悟しろ。」
白犬は出かける直前、私に釘をさしていった。
・・・ハハハ、そんなこと出来っこないよ君は。

「珈琲でも入れるよ。」

万歳楽や松虫は飲食を特に必要としない。
たまに楽しむために味わうことはあっても必要ない"体"だからだ。
(そのわりには何故か風呂好きでよく二人で混浴している。emoji)
自分もまたこの空間では不思議なことに食は別に必要ないのだ。
犬もまた必要ないが彼は本能の赴くまま好きなものを味わっている。

キッチンらしきものはあるけどほとんどなにもない。
(幽霊なのに)老人が時々珈琲を嗜むので珈琲のセットがある。
老人に習って手挽きミルをし、ドリップで入れる。
そうとう本格的な手法を会得した。
もし、現世に戻ってもバリスタとしてやっていけるかもと甘いことも
ふと思う。

豆をごりごり挽き湯を沸かす。
挽いた豆にそそぐとドリッパーのなかでふんわり
ドームをつくる。砂時計を逆さにして蒸す。

あとはしずかにドリップしていく。


「良い薫りだな。」
ソファーの向こうで万歳楽が言った。

私はその一言が嬉しくて、どうあっても極上の珈琲を入れるぞ!
とモチベーションがあがった。
白磁のシンプルなカップにそそぎ、窓際のソファーの側にある
ごくちいさなテーブルに運ぶ。

万歳楽は目をつむり、私がいれた珈琲の薫りを楽しむようにカップを
細い指に絡ませ顔に近づけた。

はああ・・・。
なんというか、優雅なしぐさに私は見とれた。

美しくてドキドキする、可笑しいだろうか?
でもそれくらい私には万歳楽が眩しくてたまらない。
夢かうつつか彼とはただならぬ関係を重ねた私だがそれとこれとは別。
目が会うたび新鮮で美しい万歳楽がそこにいる。

「素晴らしい。頼光、お前は何でもできるんだな。」
「え?」
とんでもない、私はただの人間だし、君は美と不思議な力をもつ精霊
じゃないか。

「お前がうみだすものには何でも心が籠っているな。久々にお前の笛が
聴きたい。」
「え?」
龍笛なんて私はやったことがない。
そりゃ昔々・・・気の遠くなる昔なら奏でたのだろうけど。
それは万歳楽の時間軸であって、今の私には無理無理絶対無理。


「大丈夫だ。」
ぽん、と笛をいつの間にか渡されていた。

〈・・・・・い、いや、無理だってば、本当に!〉

梅の紋が入った笛。これは、たしか妹に譲ったものだ。
うっすらと覚えている。

唇にそっとあててみる。
あ・・・れ?指使いが自然にできる。

ヒョオ~っと、音が出た。え?信じられない!音が出ること自体奇跡だ。

あとは、なぜか頭が真っ白なのに旋律や指の動き、息継ぎ、すらすら
曲が流れた。

ガラス越しに秋の儚い陽光が煌めく、その澄んだ色合いにぴったりだった。
私自身その音色に酔った。



万歳楽は目をつむり、静かに聞いている。
ああ、もし、彼が舞うなら天人の如くだろう。

----------------曲がやむ。


万歳楽は目をあけて拍手をしてくれた。
「素晴らしいな、やはりお前は笛の名手だ。」
「ありがとう、万歳楽。」私は彼の隣近くにすわる。



しばしの沈黙の時が流れたのち、

ふっと目があう。
すると彼は私の手に美しい指を絡ませてきた。
そして私の唇に軽くキスをしてくれた。

あやしくも美しい切れ長の青灰色の瞳が私を見つめる。
天青石に似た色の瞳に私の心は早鐘のようだ。

健全な陽光の下なんだが、悪い!もうこの状況はとめられない!
私はそのまま、彼をソファーに仰向けに倒し・・・・・・た、

その時!


「お前!なにをしておるかあ!」
白い物体がソファーの裏からむくむく現れた。
怒り心頭の白犬が大きな口をあけて牙をむき出しにしていた。
いまにも私に跳びかからん勢いだった。

「うるさい、大声をだすな!!」
万歳楽はいともたやすく犬の大きな口に手にあてて鎮めた。

「これだから人間は信用できない!!」犬は吐き捨てるように言った。

ああ、残念。
なんというか私の高ぶった気持ちは一気に急降下した、
このモヤモヤどうしたらいい!!

しかし、ふっと先ほど触れた唇に手をあててみた。まるで宝物のように。
それだけでドキドキする。

「・・・・」
万歳楽は何事もなかったように静かに外を見つめていた。
そのクールな横顔。
一瞬、この綺麗で健全そのものな秋晴れの空の下、しかも都内が一望
できる場所で隠し所なく絡み合う姿を想像したらものすごく恥ずかしく、
でもぞくぞくと興奮した。

そんな私の心を盗み見したように白犬はぎろぎろと金色の目で私を
威嚇している。まさに獲物を横取りされかけた獣の猛々しさだ。

-------------------なんかなぁ、凄く気まずい。

別に彼が怖いというわけではないんだが。

というより、私と万歳楽は(たぶん)相思相愛でなにもやましいこと
なんかない!堂々としているべきだ、うん!!


「ただいまかえったよ。」・・突然、床から老人と松虫が出てきた。
いや、霊体だからってそれは・・。玄関らしいところ・・あるでしょ。

「・・・・・!」
松虫が真っ先に万歳楽の腕に飛び付く。
万歳楽は「楽しかったか?」といとおしく頭をなでた。
「・・・・!」
きらきらした大きな瞳で松虫が大きく頷く。

老人はいくつか本を拝借してきたようだ。
司書もめったに入らない部屋だからゆっくり読んだらかえすと
言っている。

松虫がなにか包みを取り出し、私にくれた。
甘い芳ばしいかおりがする。
「・・・・!」(おじいちゃんの晴明様からのおみやげ!)

開けてみたらほかほかの鯛焼きが10匹入っていた。

「うまそうだな!俺に全部よこせ。」
急に機嫌をなおした犬がぬっと出てきた。
「ダメだよ、一人2匹ずつだよ。」


私は老人に礼を言う。
そんなやりとりをみながら白いソファーで肘をつきながらふっと
万歳楽が微笑む。
なんだかんだと雑多なこのメンバーを彼は気に入っているのだろう・・・。

私は何故か源荘のことを思い出した。
・・・・・・・複雑な意味で・・・ほんのすこし胸が痛んだけど・・。


彼らのいう「休日」が終わる・・・。



<おわり>


※たぶん普段万歳楽は「都を見守る精霊」のお仕事で都内をあちこち
巡っているのだと思う・・。だから家?にいることが珍しい・・。
白犬もしかり・・。澁谷の<あの場所>にいるのが仕事。
普段は松虫と老人がお留守番・・・失踪中頼光兄ちゃんは主夫的なこと
やってるのかもしれない・・。

人間から見たら毎日が日曜日に見えるのかも・・。(笑)