15 September

薄藤色 

--------都を見守る精霊だってたまには休む。

安倍晴明邸の奥にある一室
小雨の降る夜、星見はできない。
だからたまにやすむ。

松虫が小さな手で主のためにしとねの
準備をしていた。
畳の上に敷く薄い寝具。隅のほうまで
きっちりそろえた。

しとしと雨が降る春の宵、
その湿り気が中庭の花花のにおいもつれて
くる。

主は、仮面をはずし、直衣を脱ぎ、
白い単一枚の姿になった。
晴明翁から万歳楽へ変わった。

松虫は、主の素顔をみられぬよう、
締め切った木戸の前で寝ずの番をする。
木戸の前に衝立を置いてそのまえに藁の
円座をしいて座った。  
ぴったりと締め切った戸。
奥は気配を感じぬくらい静かだ。


細い灯明の揺らぎが壁に明滅する。
御簾が揺れている。時々やもりが壁を横断
し奇妙な影を投影する。

松虫は眠らない。

暗い井戸の底のような眼で明かりの明滅
を見ていた。一点をじっと見つめていた。

灯明につられた蛾がやってくる、
ちりちりと、鱗粉が炎で焼ける音がする。
鱗粉から蛾の羽に焔が遷る・・。

焔に近づきすぎた哀れな蛾が床におち断末の
時を迎えている。。
それを表情もかえず見つめている童女。
<主が命じたことは確実に行う。>


雨があがった様子の夜半。



松虫は相変わらず藁の円座に小さな足を
きちんと正座させていた。
瞳は一点を瞬かずに見ている。
まったく動かない。
この童女には隙が無いようす。
・・・・・愚かな人間は近づけないだろう。


-------しかし。

・・・・・いつのまにか、
守るべき白い単の主が・・・童女の隣に
座っていた。衝立にむかって「呪符」を貼る。
「結界をはった。暫くは誰も入れない。」

戸をあけ寝所に招く。
松虫は無表情で滑るように寝所へ。
主は上掛けにしていた着物をめくると
松虫を招いた。松虫もまた、単一枚になり
主の床へ入っていく。
 主は、童女を抱えるように胸元へひきよせる。
小さな躰はすっぽりつつまれた。

「明日の晩は晴れる。星見にはよい日だ。
また、供を頼む。だから今宵はすこし休む
がよい。」
「・・・・・・。」

松虫は主である、紅い長髪の青年の胸に
優しく抱かれて静かに眠りにおちてゆく。
褥のそばには主の小面の仮面がおいてある。

誰も知らない秘密の時間。夜が明ける前の
つかのま大好きな主との安らぎの時間。

上掛けにしているのは、主の薄藤色の着物。
中庭の藤の花の香りも漂ってくる。
まるで花弁の褥のようだ、と微睡みの中で
童女は思った。


・・・・・・・・・主の胸はあたたかい。



<終わり>





※読み返したら恥ずかしくて確実に
黒歴史作品になるな。コレ。(2018某日)
削除しようか迷った。