01 August

夢幻車中

「東京編」


「頼光(兄)×万歳楽」
                 




もうどれくらい時間が経っているのだろう?
さっき、この電車に乗ったような気もするが、
もう何世紀もこの電車に乗っている気もする。

窓の外は闇だけが広がり、時折、記録映画の
早送りのように歴史の一場面みたいなのが駆
け抜けるけど、あれは映像なのか本物なのか
夢なのかさっぱりわからない。

長い間ここにいるはずなのに
空腹も眠気も感じない。
ちょっとだけ・・「寂しい」とは思った。

あれ?私には家族がいたんだっけ?
妹がいたような・・いないような・・。

時々、赤い髪の黒衣の若い男が現れる。
現れてはまたいつのまにか消えている。

 あの人のこと・・・私は知っている。

そうだ・・彼は・・。

 
「君、晴明か?」
「・・・・・。」
「ひさしぶりだね。あれから1000年以上たっ
ているね。」
「・・・・・・。」

赤い髪の青年はまったく無表情だったが
「晴明」という呼びかけにかすかに反応した。

「・・・・お前・・記憶が戻ったのか?」
「よくわからないけど・・この電車に乗って
以来時々前世のことがフラッシュバックする
んだ。」

「おまえは・・”本物”の源頼光。光の実兄。」
・・・・・赤い髪の青年は静かに言った。
「ああ・・そういう時代があったね。私は早
逝してしまったようだけど。」
「・・・・。」

「君があの都でなにかたくらんでいたことは
私はうすうす知っていたよ。だから妹にあの
ような詩にメッセージをたくしてみたんだ。
[晴明に裏あり。]ってね。洒落てるだろ。」
「・・・・・。」

晴明・・赤い髪の青年の美しい眉がぴくりと
動いた。「・・・・もう一つ・・思い出した。
おどろいたよ・・・ここで君のことを見るた
びに私の心が騒いだわけだ。」

私は目を閉じ・・一つ一つかみしめながら
こう告げた。

 「・・・・・私はね・・実は君が好きだった
んだよ。君は気が付かなかっただろうけど、
あの面の裏に隠された美しい素顔をほんの
一瞬・・見てしまったんだ。見たのはあれ
っきりだけどね。それ以来・・・道ならな
いと思いつつも君をそっと心の底で恋の対象
にしていたんだ。おそらく初恋だったんだと
思う。身内にも誰にも言えない苦しみに心悶
えていたんだよ。日本文化に男色は通常だっ
たけど、意外といえないものさ、しかも、君は
上の身分、私は宮にも上がれない武家の身分。
ま、父上が画策して、家はそれなりに身分保っ
ていたわけだが。」


・・・私は赤い髪の青年に近づいて
  ・・・そっと、手を頬に触れてみた。


・・・・・コトンコトン

どこをさまよって走っているのか・・小刻み
に揺れる謎の電車。

車両には・・いや・・この電車には私と彼
しかいないのであろう。

闇の中を無限に走り続けている。


赤い髪の青年はあいかわらず無表情だ。
私の1000年超えた勇気ある告白にも微動だ
にしない。ちょっと拍子抜けした。

「君とは長い時を経て巡りあえたんだね。
あのころ・・・・・・・君が京で何をしよう
としていたかは知っている。だが、私はそれ
を止めようとは思わなかった。自分の命も短
いことは感づいていたしね。ただ、常に必死
だった妹だけは可愛くてね。」

晴明だった青年の頬は陶磁器のように白く
冷たかった。瞳は水晶か天青石のように
灰色青く透き通っていた。

<綺麗だ・・・・。>

遠い昔、
不治の病床の中でそっと秘密の扉を開くよう
に思い描いていた仮面からかいま見えた”恋人”
の肖像。それが目の前に今・・・ある。

思春期にあたっていたそのころの私の心は
かき乱れ、夜目をつむるとまぶたの裏に彼
の姿が現れた。さらに私は私と同じはずな
のに・・・その・・衣の下の肌を何度も妄
想した。よくないと思えば思うほど心は自
由になり人には言えぬあさましい妄想に心
を焦がしていた。

私は1000年の時を超え・・・・・
頬に手をあてたまま晴明であった赤い髪の
青年の唇に自分の唇をそっと重ねてみた。

「!」

晴明であった赤い髪の青年は一瞬怯んだ。
沈黙が流れる。

切れ長の瞳を伏せうつむいた・・・。

 
・・・しかし・・やがて彼は
無抵抗に己を差し出すかのように・・・
私の前、静かに跪いた。
「・・・ここへ迷い込ませてしまったのも
俺のせい・・。 俺に償えることがあったら
お前の好きなようにしてくれ、頼光。」

「一つ聞きたいことがある。」
「なんだ。」

「私はこの無限の空間からもしも帰ることが
できたとき、私の頼光としての記憶はどうな
る?」
「・・・・全てが元通りになる。歪んだ歴史
は修正され、おまえは21世紀をいきる普通の
人間の記憶しか持たない・・。」
「では君のことも忘れてしまうんだね。」
「・・・・・・・・・・。」
座席に晴明だった彼をおしつけるように
すわらせると私は夢中で口づけた。
むさぼるように。彼はまったく無抵抗だった
・・というより私を素直に受け入れされるが
ままになっていた。

私の欲望は一気に爆発した。
こんなことはまちがっている!理性がなんど
もささやく。しかし・・・1000年の時を経て
埋もれていた彼への想いのほうが勝っていた!
黒いコートの中に手をいれその下の黒衣の中に
も手をいれるとなめらかな肌の感触が 伝わって
きた。

・・私は晴明に無限の闇の中で・・
時のループのなかで秘密だった禁断の想いを
濃厚にぶつけた。晴明もまた私の思いに何故
か答えてくれている。なぜ、私を受け入れる
のだ?
そんなことはどうでもいい!
今は・・・今は・・ただ・・

私の記憶がリセットされる前に!!
君の全てを私のものにしたい!晴明!!

忘れてしまうなんていやだ!

晴明!晴明!晴明!・・・いや万歳楽!!

私は間違ってると思いながら本能的に・・
ただただ禁断の味を貪っていた。


                     

                    <終わり>